豊かな耳を育てましょう
新年あけましておめでとうございます。
みなさん、楽しいお正月を過ごされましたか?
3が日は素晴らしい晴天が続いて、とても清々しい1年の始まりになりましたね。
さて、新しい年には一年の目標を立てるでしょう?
ピアノのおけいこにも、自分なりに目標を立ててみて下さい。
その中にひとつ「今年はクラシック音楽をたくさん聴く」を加えましょう。
去年はみなさんそれぞれ、新しいことをたくさん覚えました。
ソルフェージュで音やリズムを覚えて、いろいろな曲を弾いてみたり。
難しい曲に挑戦して、さまざまな素早い動きを弾きこなすために
リズム練習に集中したり。
こうして一歩ずつ、いろいろな曲に近づいていくのですが、
そのためにもうひとつ、大切なことがあります。
それはよい音楽をたくさん聴いて、豊かな耳を持つことです。
ピアノが上手に弾けるというのは、間違わずにスラスラ弾けるだけではありません。
美しい音色と、その曲をよく理解して最も美しく運び、まとめることです。
みなさんの曲の中には「rit.」リタルダンドがよく書かれているでしょう。
これは「だんだん遅くする」という意味ですが、
いつも先生に何度もやり直しをさせられるのが
「いったいどのあたりから、どれくらい遅くしていくのか?」ですね。
また、曲の中のクライマックスや
ひとつひとつの音の意味や表情を感じ取って表現すること。
こうして文章にするとずいぶん難しい曲の話のようですが、
バスティンクラシックメドレーの「愛の夢」でみなさんはこれを勉強したでしょう。
三つ並んだ同じ音のひとつずつ、弾き方を変えて表情をつけましたね。
リタルダンドも、一粒の音の意味や表情も
ただ指先だけの練習だけでは身につきません。
これには楽譜から音楽を聴きとる耳が大きな鍵をにぎります。
ピアノを本当の意味で弾いているのは、実は「耳」です。
みなさんの耳がどれだけ美しい音色を知っているか
どれだけリタルダンドのテンポを聴いたことがあるか—
たくさんの美しい音楽を聴いている耳が、
指先に命令してそれを作らせるのです。
先生がよく言っている「内なる耳」とは、
この「音楽をよく聴いている耳」のことです。
12月号で紹介したベートーヴェン。
彼が耳がまったく聞こえなくなっても素晴らしい音楽を作曲できたのは
彼の「内なる耳」が枯れることのない泉のように豊かに生きていたためです。
この、よい耳を育てることと、ピアノの練習をすることは
ちょうどみなさんの成長と同じです。
たとえば腹筋運動をしたり、サッカーでドリブルの練習をしたりする時
がんばって続ければ、目に見えて上手になった、強くなったとわかるでしょう。
ピアノも一生けんめい練習すれば、
自分でもびっくりするくらいスラスラ弾けるようになります。
もうひとつ、みなさんは毎日ご飯を食べるでしょう?
牛乳は骨を強くする、お肉は筋肉を作る…
でも、今日牛乳を飲み、お肉を食べたからといって
すぐに背が1センチ伸びた!…とはわかりません。
何よりご飯を食べるときは「おいしいなあ」と楽しく食べていて、
「あ、今骨が太くなった!これでもうすぐ背が伸びるぞ!」なんて考えていませんね!
音楽を聴いている時も同じ、何も考えずにその美しさや楽しさを味わっているだけです。
けれどもみなさんの身体が知らないうちに成長するように、
音楽を聴くことも、知らないうちに耳を成長させてくれるのです。
聴いた音楽の雰囲気をすぐに手で再現するには時間がかかるかもしれません。
けれどもこれを続けていれば、手が耳に追いついて来た時に、急激に上達します。
レッスンで先生に口うるさく言われていたことが、ある時突然わかるのです。
クラシック音楽をたくさん聴くことは
小さいうちは自分一人ではなかなかできないことでしょう。
お父さま、お母さまは、毎日の生活の中に少しずつ音楽を取り入れてあげてください。
みなさんの演奏が、みなさんと同じように呼吸をし、歌い、感じる、生きた演奏になるように、
どうかよい耳、豊かな耳を育てていってくださいね。